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コラム

不動産×ITは日本で浸透するのか!?米国との比較で解説


不動産業界は、日本では武士が私有地を持つことができるようになった鎌倉時代から存在すると言われる非常に歴史のある業界です。江戸時代には、庶民が住む長屋が登場して、現在の商売に近い形になりました。産業構造の変化によって多くのビジネスが淘汰されてきたなかで、昔から変わらぬ商売を続ける不動産業界は、ITのような最新の技術との相性が悪く、全く浸透しているとは言えない状況のままです。歴史や商習慣に違いはあるものの、アメリカでも同じように不動産業界へのIT技術の導入は、決してスムーズに行われたわけではありません。

このような前提のもと、日本よりも一歩先を行くアメリカの不動産業界におけるIT活用事例を紹介するとともに、日本でも不動産×ITが浸透するのかについて検証を行います。
 

どうして不動産にはITが馴染まないのか

不動産業界がITを受け入れない原因としては、業界内の平均年齢が高いことや、インターネットが登場した時代に不動産不況が重なっており設備投資が進まなかったことなどが挙げられます。しかし、実はもっと根本的なところに、不動産とITの相性の悪さがあります。インターネットをはじめとしたIT技術は、情報をまとめたり、情報を拡散させることを得意としている技術です。誰もがスマホやパソコンを使って、自由に情報にアクセスすることによって生活の利便性を高めています。

一方、不動産業界というのは、不動産に関する情報をいち早く掴みとり、周りに情報が出ないように細心の注意を払いながら、少しでも多くの手数料や利益を得ることを目的としています。全ての人に同じ情報を届けようとするITと、情報の非対称性によって収益をあげる不動産業界では、情報に関する捉え方が全く異なるのです。そして、あらゆる情報が一般に流出してしまうと、不動産業界ではこれまでのように収益を上げることができません。
 

ビックデータの活用が進むアメリカの不動産事情

IT先進国であるアメリカでも、不動産業界へのITの浸透には随分と苦労した歴史があります。不動産業界そのものの構造は、日本とアメリカでほとんど大差がありませんので、アパートなどを賃貸するときには街の不動産屋さんが多くの情報を持っていて、売買を専門とする中堅の不動産会社も数多くあります。やはり、不動産業界が情報を独占することによって収益を上げるという構造も同じです。このような状況に対して、ITのスタートアップ企業が真っ向から挑んだことによって、アメリカの不動産業界は徐々に変革に迫られ、現在に至っています。

アメリカ全土をメッシュ状に細かく分け、それぞれの小さなマスごとの特徴を解説することを目指したIT企業の登場によって、アメリカの不動産業界は大きく変わりました。さらに不動産の賃貸や売買に関する取引の詳細データを取り扱うビックデータが加えられることによって、各地の不動産情報が一般に公開されるようになりました。病院までの距離や、指定された学区、治安や犯罪件数などの情報、さらには不動産仲介業者のレビューに至るまで、あらゆる情報が不動産サイトに掲載されています。不動産業界にとっては決して歓迎すべき状況ではありませんが、利用者であるユーザーにとっては非常に利便性が高く、貸し手や借り手、売り手や買い手が安心して契約ができる環境になっています。
 

日本の不動産業界にもITは浸透するのか

アメリカで実現したことは数年ほど遅れて日本にも導入されるというのが、これまでの両国の関係ですので、今後は日本でも不動産とITの融合が見られると予想されます。相続や転売などによって、徐々に不動産オーナーのなかにもIT活用が当然だと考える世代が増えてきていますので、不動産業界はこれまで通りの体質では十分な顧客を獲得することができなくなっていきます。

ただし、少子高齢化が進む日本では、不動産そのものの需要が減り続けることが確実であるため、ビックデータ活用などの導入コストの高い技術を、どれだけ取り入れることができるのかについては不確定な部分も多いです。アメリカでは2010年代にも不動産への投資ブームが起こっており、十分な需要を背景としてITの活用が進みましたので、この点については日本とは随分と事情が異なります。不動産市況の動向によっては、日本の不動産業界にはITが浸透しないという可能性さえあります。