ニュースには連日「物価高」の文字が躍り、食品メーカーの商品値上げのニュースもたびたび目にします。一つ一つの値段が上がっていることはなんとなくわかるものの、普段の買い物の金額がどのくらい増えているのかリアルに感じたくなり、5年前のレシート品目と同じものを買ってみることにしました。
まず、今回5年前のレシートからわかる情報だけを頼りに、買い物金額の合計を比較するという、やや雑な手法をとってしまいましたが、懸念される点があれば、恐縮ですが補足をお願いします。 物価変動を見る、わかりやすいやり方だと思います。 ただ、レシートだけを頼りにすると、
(1)完全に同じ商品なのかわからない
(2)もし同じ商品でも内容量が減っているなどがあれば、同じ価格でも物価としては上がっている場合がある
(3)店によって価格戦略が違うので、値上げの全体像としては語れない
という、3点は指摘しておきます。
その上で、今回のレシート比較、消費者物価の全体像と照らし合わせて 目立つのは、サンマの缶詰です(レシート上では、279円が578円に)。 全体の物価を見ても、サンマはものすごく値段が上がっているので、どこで買ってもこういう感じになると思います。 6月24日に総務省が発表した5月の消費者物価指数の細かい品目を見てみると、サンマは5年前と比較して88%の上昇です。 この上昇率を見ても、レシートに記載されているサンマの缶詰の値上げ幅は全国の平均的な値上がりに合致するのかなと思います。 ただ、サンマについては、いまに始まった話ではなく、数年前から不漁などの要因が続いているので、近頃の物価高以前からの話です。 確かに不漁の問題は以前から言われていました。一方、今年に入ってからも2月にはマルハニチロが「原材料価格の上昇」を理由に、サンマの缶詰など41品目で参考小売価格を約3~15%引き上げると発表しています。 いまは、魚そのものの値上がりと、缶詰の容れ物の値段、運送費、サンマを獲るための燃料費など、値上げに影響する要素がたくさんあります。
他に値上がりが気になる商品
大豆は、輸入品の割合が多い作物です。 新型コロナから世界が回復する中で、原油などの値段が上がっています。そこに、ロシアによるウクライナ侵攻が加わり、小麦や大豆などの穀物価格が急騰しています。 日本は輸入しているものがほとんどなので、その急騰の影響を受けています。
(※農水省のホームページによると、食品用大豆の自給率は2020年で6%)
ちょっと話はそれてしまうのですが。5年前のレシートと今回のものを比較していて気になったのですが、食品の値段は一回値上げすると下がりにくいということはあるのでしょうか?値段が上がるニュースはよく見ますが、「この商品を値下げします」というニュースはあまり見ない気がします。
もともと、ものの値段は下がりにくいというのが基本です。かつての日本、そして世界的にみると、ものの値段は下がるのではなく「どれだけ上がるか」が注目されます。下方硬直性と言うのですけど。 でも日本の場合、1990年代後半、あまりに景気が悪くなったため、「企業が労働者の賃金を下げる」という一線を越えてしまいました。ものの値段は人件費に連動する部分があります。賃金の下落に連動して、ものの値段も下がったのです。 日本はその後20年以上に渡りデフレの状況が続いているので、世界的にはノーマルではありませんが、ものの値段を下げることが長く続いていました。
「日本だけものの値段が低価格なままなのはどうでしょう。」というのはよく耳にします。 日本は世界的に見ると物価が異常な国で、なごりはいまもあります。 いまも、「物価があがっている」という声がありますが、2%ずつくらいの物価上昇は、世界でみると普通です。 アメリカとかヨーロッパは、現在物価上昇率が8%とか9%になっているから騒いでいるのです。 日本はもともと、あまりにものの値段が上がらなかったからに過ぎません。
アメリカやヨーロッパのように賃金が上昇していれば、ものの値段がある程度上がっても対応することができます。しかし、日本は賃金がほとんど上がっていないので、2%の物価上昇でも負担が非常に大きく感じるのです。
前年比12.3%の生鮮食品の衝撃
食品の物価高の話に戻りますが、5月の消費者物価指数をみると、食べ物の中でも生鮮食品がものすごく上がっています。 生鮮食品は前年比12.3%と4ヵ月連続で前年比二桁の伸びです。 消費者物価指数は、天候などが要因で物価が変動する生鮮食品をのぞいた総合指数(コアCPI)でみることが一般的ですが、それはあくまで金融市場が注目しているものです。 一般の家計にとって物価をみるときに生鮮食品を除く理由はないですよね。 今回、コアCPIは前年比2.1%でしたが、生鮮食品を含めた「総合」は前年比2.5%でした。 その生鮮食品の中でも、タマネギの上昇率は顕著でした。前年比125%になっています。 理由としては不作が大きく、去年あたりから出荷量が少なくなっていて、市場に出回る量が減っているため価格が高騰しています。
今回発表された消費者物価指数で、上昇率が一番高いのが、前年比36.2%の食用油です。他にも、前年比25.4%のマヨネーズなど。原材料価格の高騰そのものが理由です。 パン、麺類、菓子類の価格上昇も気になります。ウクライナ情勢の影響を受けた、小麦価格の上昇が理由です。 小麦については、これからさらに上がると思われます。 日本の場合、小麦の価格を政府が決めているので、輸入価格が上がった分の反映があとにずれてくることが理由です。
5月の消費者物価指数の「生鮮食品を除く食料」は前年比2.7%ですが、夏場には4%近くまで加速する可能性が高いです。 というのも、「消費者物価」は企業から家計に販売する価格のことを指します。ただ、企業から家庭に販売される前には、企業間の取引がありますよね。現在、企業間での食料品の取引はどのくらいで行われているかというと、前年比5%近いのです。 一番川下の段階にある消費者物価には企業間の取引が100%転嫁されるわけではないので、企業間の取引よりは上がりにくいですが、今後4%近いところまでいくのではないかと見込まれます。
更に食品だけでなく電気やガソリンなど身近な商品は価格上昇が進む中で、増えない賃金でどこまで耐えられるか。預金に頼りがちな日本人は特に大きなダメージを受ける可能性が高いのです。出来るだけ早い段階から物価上昇(インフレ)に対応出来う資産形成に取り組み、限られた収入から遣えるお金を増やすような節税対策も同時に行っていけると良いでしょう。