中国の税関総署は8月24日により、原産地を日本とする水産物(食用水生動物を含む)の輸入を全面的に停止すると発表した。この裏には少なからず中国経済を支えてきた不動産市場が関係しているかもしれない。景気低迷による国民の不満を中央から外に向けることで気を逸らそうと言う意図がありそうだ。
今回は中国の不動産バブルとは何か、いつからどのような原因で崩壊の危機に陥ったのか、その背景をわかりやすく掘り下げていきます。
中国の不動産バブルの実態
中国での不動産開発は「プレセール(事前販売制)」といわれる、住宅の完成前に代金の一部を支払う形態が一般的です。
開発業者は回収した資金をすぐ次のプロジェクトの開発に回していった結果、実際の需要を投資が大きく上回るような構造が存在していました。そして不動産が売れ続けることで地価も高騰し、値上がりを見込んで投資も更に加速する、という相乗効果の中で中国の住宅市場は長らく好調を維持していました。
しかしこれは一種の自転車操業であり、非常に危ういバランスの下で成り立っているシステムでした。
政府の規制強化により住宅不況に
2020年8月、中国政府は「三道紅線(三本の赤線)」という規制強化の方針を打ち出しました。これは財政状況に不安のある不動産開発企業に対する銀行融資を規制するもので、過剰な不動産投機を抑制し、格差を是正することを目的としたものです。
この結果、総負債比率等の基準に抵触した企業への融資に制限がかかり、30社を超える不動産開発企業が次々と債務不履行に陥りました。
その中でも最も市場へのインパクトが大きかったのは、中国恒大集団のデフォルト(債務不履行)です。中国を代表する巨大企業であった恒大の信用不安は、数多くの関連企業に損害を与え、住宅以外の業種にも波及する経済問題となりました。
未完成住宅問題
この経済危機が引き起こした最も重大な社会問題のひとつが未完成住宅問題です。中国では先述のとおり、多くの物件が竣工前に販売されていました。購入者は頭金を支払ったあと、住む前からローンの支払を開始するのが一般的でした。
しかし、規制強化により開発企業が資金繰り難に陥ってくると、代金支払いへの不安から建設会社が工事を中止するケースが増加してきました。その結果、物件の引き渡しの見通しが立たなくなる一方、ローンの支払だけは要求され続けるという、購入者にとっては受け入れ難い状況が生まれるようになります。
こうした問題に対する購入者達の抗議として、住宅ローンの返済拒否を宣言する動きが全国に広がっていきました。支払拒否の対象となるローンの総額は約3,700億ドル(約49兆円)という試算もあり、これらが不良債権化するリスクが懸念されています。
また住宅市場においても、新築販売の落ち込み(2022年1〜10月の住宅販売額28.2%減、前年同期比)という形で影響が顕著に現れています。
世界への影響
今回の中国の不動産危機も、最悪の場合リーマンショック級の影響を世界にもたらし得る、と一部の専門家からは指摘されています。
中国も事態を重く見ており、2022年の後半にかけて不動産市場への救済案を次々と発表するなど、事態の打開に動いています。トップダウンで強力な施策を推進できるのが中国の強みなので、バブル崩壊しない程度に踏みとどまるのではないかという見方もあります。
日本のバブルとの共通点
中国の施策とその結果を見て、かつての日本のバブル崩壊を想起した人もいるでしょう。実は中国の「三道紅線(三本の赤線)」は、1990年に日本で導入された「総量規制」に非常に近い施策です。
1980年代後半の地価の高騰や不動産投機を抑制するため、大蔵省の通達という形で発せられ、1991年を頂点に地価は下落に転じました。目的は達成された反面、これをきっかけに日本経済は急速にデフレが進行し、以降「失われた20年」といわれる低迷期に突入しました。
日本への影響は?
中国の不動産バブルは人類史上最大規模であるため、前例がありません。そのため、バブルの崩壊が世界経済にどのような影響を与えるか、分かっていないのが現状です。
しかし、中国の不動産バブルの崩壊は、少なからず日本の不動産の値崩れに影響があるといわれています。その理由について解説します。
過去の事例から考察する
日本経済に大きな影響を与えた2つの事例から、中国の不動産バブル崩壊がおよぼす影響について考察してみます。
日本のバブル崩壊
1990年代はじめは日本がバブルで、不動産や株式の価格が実体より大幅に値上がりした状態でした。そこで日本政府や日本銀行が行った、以下をきっかけにバブルが崩壊します。
•土地購入に対する融資の引き締め
•土地所有者に対して税金を課す地価税法を施行
しかし、この時の他国への影響はそれほど大きくありませんでした。その理由として、主に日本円の流通が日本国内中心だったため、他国への影響が限定的だったことが挙げられます。
リーマンショック
2008年に起きたアメリカのリーマンショックでも、日本と同じように不動産バブルがはじけました。しかし、日本の時と比べて、世界への影響ははるかに大きくなりました。
ドルが基軸通貨として世界中で使われていたため、ドルの流通が滞ることで世界中に影響を与えました。
また、米国の輸入額がとても大きく、景気後退で輸入が落ち込むと、アメリカに輸出していた国も大打撃を受けました。そのため、世界的に経済不況が起きてしまいました。
日本も例外ではなく、株価は大暴落し、26年ぶりの安値を記録しました。また、バブルから続いていた地価下落が落ち着き、2006年から上昇していた地価が、再び下落に転じてしまいました。
その後数年にわたって地価が低迷したことを考えると、リーマンショックの影響を受けたといえます。
日本は中国への輸出が多く影響を受けやすい
中国の通貨である人民元は世界的にそれほど流通しているわけではありません。そのため、日本のバブルと同様に通貨の停滞による影響は限定的だと予想できます。
しかし、中国の輸入額はかなり大きいため、景気悪化によって輸入が減ると、世界の経済にも大きな影響が出る可能性もあります。
日本では中国への輸出額が、全体輸出額の4分の1という大きな割合を占めているので中国経済の影響は大きいでしょう。
また、不動産バブルが崩壊すると、不動産の建築件数が大幅に減るため、建築資材の売れ行きが悪化します。そのため、今後建築資材が余り、価格下落が起きた結果、不動産価格が下がる可能性があります。
日本の不動産の需要が低下する?
中国人の富裕層は日本にたくさんの不動産を所有しています。それは、中国では土地の所有権がありませんが、日本では所有権が認められているからです。
また、東京の不動産は中国と比べて安いことも魅力です。上海のマンション1戸を買う値段で、東京のビルが買えるといわれるほどです。そのため、コロナ禍で人流は減りましたが、遠隔で不動産を購入する人はまだまだ多いようです。
しかし、コロナ禍で物流が滞り、不動産価格が上昇しています。また、中国の不動産バブル崩壊により不動産価格が下落すれば、日本の物件に割安感がなくなる可能性があります。
さらに、中国経済の停滞により、富裕層の減少が続けば、中国人投資家が日本の不動産を購入することも減るかもしれません。中国人投資家の減少は、需要の低下になるため、日本の不動産価格の下落に少なからず影響を与えます。
今後の不動産売買について
中国の不動産バブルの崩壊は、少なからず日本の不動産の値崩れに影響があります。では、今後不動産取引を考えている人はどうすればよいのでしょうか。
購入を考えている人
購入を考えている人は、価格の下落を待ってから購入する方がよいと考えるかもしれません。しかし、購入に慎重になる必要はありません。
アメリカが利上げをしていることから、今後金利が上昇する可能性があるため、なるべく早く住宅ローンを組んだ方が有利になる可能性があります。いつの金利を適用するかが重要になります。
金利が1%変わるだけで1,000万円以上返済額が変わることもあるので、低金利時代を逃さないようにしましょう。